食欲は健康のバロメーター。私も「食欲はどうですか?」と、子供の診察をする度に聞いています。でも、食欲ほどお母さんを惑わすものはありません。
大人では、ご飯を何杯もお代わりする人、一杯しか食べない人、その人なりの食欲が認められているのに、子供ではそれが難しいのです。育児書をお手本に育てていく現代の子育てでは、標準を目安にするしかありません。大食の子に比べると、小食の子は心配の種になりがちです。体重も食欲に左右され、太った子になったり、やせた子になったりするからです。「体質です」と説明されてもなかなか納得できません。それに、成長の過程で子供の食欲は変化するので、ついそれに振り回されてしまいます。
これまでぐいぐいおっぱいを飲んでいた赤ちゃんが、4カ月を過ぎたら急に飲むペースが落ちたと、深刻になって相談に来たお母さん。ミルクの場合は作った量が目に見え、飲まなければ捨ててしまうので、よけい気にかかります。
赤ちゃんは最初の3カ月で、生まれたときの約2倍の体重になり、その後は生後1年までにほぼ3倍になります。ある時期に食欲が落ちてくるのが自然です。機嫌よく過ごしているなら、体重など測らなくてもいいのです。しかし、ここは不安でたまらないお母さんを説得するために、体重を測ります。増えていれば病気のせいではありません。焦って無理に飲ませようとすると、赤ちゃんは頑として受けつけなくなるので、ご用心。
離乳食がすすみ、幼児食になってからも「食べない悩み」は出てきます。「ほとんど食べないのです」と連れてこられた3才の男の子。やせているわけでもなく、元気いっぱい。よく聞いてみると、ごはんやパンなどの主食しか食べず、おかずは少々。しかし、お腹が空いてくると、牛乳を1日で1リットルは飲み、お菓子や果物を食べていることがわかりました。
栄養不足が心配なお母さんは、食べないことの埋め合わせを、どこかでしてしまうようです。牛乳と間食をきっぱりやめてみたら、おかずも食べるようになりました。
私も実はン十年前、食べない我が子をスプーンを持って追いかけていたことがあります。今となってみれば、「まっ、それもこの子とのつき合い方だったかな」と、余裕です。子育ての先輩としては、後輩にはもっとラクに、この悩みを乗り越えて欲しいのですが。